ユニバーサルツーリズムとは

ユニバーサルツーリズムのはじまり

40年前、障がいのある2人の娘たちと初めてのHawaii旅行をした時であった。
車いすを押しビーチに行った。車輪が砂に埋もれ、なかなか前に進めなかった。歩けない娘たちを交互に浮き輪に乗せ、波に揺られた。ホテルに帰るとシャワーで砂を流し、また車いすを押し町に出かけた。レストランに入り夕食の介助をした。すっかり陽が沈んだ頃、ホテルに帰り娘たちの入浴介助をした。7日間の旅行中の入浴、移動、食事介助などで疲れ切った私が、明日、神戸に帰るという最後の夜であった。

私たちは夜景がきれいなレストランで食事をした。終わるころに音楽が流れ始めた。楽しそうに踊り始める人たちを遠巻きに見ていた私たちの前に、初老の人が突然現れ、バギーに乗る娘に「Shall we dance!」と声をかけてきた。
私は片言の英語で「彼女は歩くこともできません」と話すと、
「NO! Problem」と言いながら娘を抱き上げ、自らの足の上に娘の足を乗せ、楽しく踊る人たちの輪の中に混じっていった。
しばらくして満面の笑みを浮かべ帰ってきた娘をバギーに乗せた後、彼は私たちに微笑みながら「Enjoy!Your Life!」と語った。
その後だった。
疲れていた私に「You! too!」と、やさしいまなざしで語り、ゆっくり輪の中に消えていった。
“毎日しんどいね、でもそんな顔していたら周りの誰も楽しむことが出来ないよ! さあ!いっしょに旅・人生を楽しむためにはどうしたらいいのか考えてごらん”と説かれた気がした。
私も、いっしょに旅を楽しむことが出来るようになるためには 何が必要なのか?
『旅・人生を楽しむ! そしてあなたもいっしょに!』
何らかの障がいのある人たちが一歩外へ踏み出そうとする時、その前には重い大きな扉がある。その扉をあける鍵を持っているのは、きっと私と同じように日常的に介助する人たちだ。
旅を、人生をいっしょに楽しむことが出来る環境が整えばきっと、この扉はゆっくり開き始める。とすれば、そのためには何が必要なのか?
「And You!」の言葉が、いくども私の心の中に響き続けた。
2004年、ユニバーサルツーリズの取り組みをスタートさせていく原点がここにある。
あれから20年が過ぎた。ユニバーサルツーリズムの風に舞った種が、全国の各地域に根付き小さな花を咲かせようとしている。

神戸・明石ユニバーサルツーリズムセンター
鞍本長利